心房細動の治療法の一つに、「レートコントロール療法」があります。これは、心房細動そのものを止めるのではなく、心房細動が続いている状態で、心室への電気信号の伝導を適度に抑えることで、心拍数(脈拍数)を適切な範囲にコントロールする治療法です。心房細動になると、心房が毎分300回以上も不規則に興奮しますが、その全てが心室に伝わると、心室も非常に速く不規則に拍動してしまい(頻脈)、動悸や息切れ、胸部不快感といった症状が現れたり、心臓に大きな負担がかかって心機能が低下したりする可能性があります。レートコントロール療法は、このような頻脈による症状や心機能低下を防ぐことを目的としています。治療には、主に薬物療法が用いられます。代表的な薬剤としては、β遮断薬、カルシウム拮抗薬(非ジヒドロピリジン系)、ジギタリス製剤などがあります。β遮断薬は、交感神経の働きを抑えることで、心拍数を減少させ、心臓の負担を軽減します。カルシウム拮抗薬の一部(ベラパミルやジルチアゼムなど)も、房室結節(心房から心室へ電気信号を伝える中継点)での電気伝導を遅らせることで、心拍数をコントロールします。ジギタリス製剤は、心収縮力を高める作用と、房室結節での伝導を抑制する作用があり、特に心不全を合併している心房細動の患者さんに用いられることがあります。これらの薬剤は、個々の患者さんの状態や合併症、副作用などを考慮して、医師が種類や投与量を調整します。レートコントロール療法の目標となる心拍数は、一般的に安静時で毎分110拍未満、あるいは症状がなければ80拍未満程度とされていますが、個々の状況によって異なります。レートコントロール療法は、比較的簡便に行え、副作用も少ないことが多いですが、心房細動そのものは残っているため、脳梗塞予防のための抗凝固療法は別途必要となります。また、症状が十分にコントロールできない場合や、心機能低下が進行する場合には、後述するリズムコントロール療法が検討されることもあります。
心拍数を整えるレートコントロール療法とは