お酒が急に飲めなくなった、あるいは飲みたいと思わなくなったという変化の背景には、胃や腸、膵臓といった消化器系の不調が隠れていることがあります。アルコールは、消化管の粘膜に対して直接的な刺激となるため、これらの臓器に何らかの問題があると、飲酒によって症状が悪化し、お酒を受け付けなくなることがあるのです。まず、「胃炎」や「胃潰瘍」、「十二指腸潰瘍」といった上部消化管の疾患が考えられます。これらの疾患では、胃や十二指腸の粘膜が炎症を起こしたり、傷ついたりしています。そこにアルコールという刺激物が加わると、炎症が悪化し、腹痛、みぞおちの痛み、吐き気、嘔吐、食欲不振といった症状が強まります。特に、空腹時にお酒を飲むと、胃酸とアルコールのダブルの刺激で、症状が顕著に現れやすくなります。胃もたれや胸焼けを感じることも多く、「お酒を飲むと調子が悪くなる」という経験から、自然とお酒を避けるようになることがあります。「逆流性食道炎」も、飲酒によって症状が悪化しやすい疾患です。胃酸が食道へ逆流することで胸焼けや呑酸(酸っぱいものが上がってくる感じ)が起こりますが、アルコールは胃酸の分泌を促進したり、食道下部の括約筋を緩めたりする作用があるため、逆流を助長してしまいます。飲酒後に胸焼けがひどくなるため、お酒を敬遠するようになることがあります。次に、「膵炎(すいえん)」も、アルコールとの関連が非常に深い疾患です。急性膵炎の主な原因の一つがアルコールの過剰摂取であり、激しい腹痛や背部痛、吐き気、嘔吐などを伴います。一度急性膵炎を起こすと、再発予防のために禁酒が厳守されることが多く、飲酒は困難になります。慢性膵炎の場合も、飲酒によって症状が悪化したり、病状が進行したりするため、飲酒制限が必要となります。その他にも、「過敏性腸症候群(IBS)」のような機能性の消化管障害を抱えている場合、アルコールが腸の動きを刺激し、下痢や腹痛といった症状を悪化させることがあります。また、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病など)の患者さんも、活動期にはアルコールの摂取を控えるよう指導されることが一般的です。これらの消化器系の不調は、お酒が飲めなくなるというサインを通じて、私たちに体の異常を知らせてくれているのかもしれません。気になる症状があれば、消化器内科を受診し、適切な診断と治療を受けることが大切です。
消化器系の不調とお酒が飲めなくなる関係