むずむず脚症候群の発症や症状の悪化には、「鉄欠乏」が深く関与していることが多くの研究で示されています。鉄は、脳内で神経伝達物質であるドパミンの合成に必要な酵素の補因子として働くため、鉄が不足するとドパミンの機能が低下し、むずむず脚症候群の症状が引き起こされるのではないかと考えられています。そのため、むずむず脚症候群の診断と治療においては、鉄の状態を評価するための血液検査が非常に重要となります。血液検査では、一般的な貧血の指標であるヘモグロビン値や赤血球数だけでなく、体内の貯蔵鉄の状態を反映する「血清フェリチン値」を測定することが特に重要です。むずむず脚症候群の患者さんの中には、ヘモグロビン値は正常範囲内(つまり、明らかな貧血ではない)でも、血清フェリチン値が低い「潜在性鉄欠乏(隠れ貧血)」の状態にある人が少なくありません。一般的に、むずむず脚症候群の治療においては、血清フェリチン値が50 ng/mL(マイクログラム/L)未満の場合には、鉄剤による補充療法が推奨されています。鉄剤には、経口薬(飲み薬)と注射薬がありますが、通常は経口の鉄剤から開始されます。鉄剤の服用によって血清フェリチン値が上昇し、体内の鉄が充足されると、むずむず脚症候群の症状が改善するケースが多く見られます。ただし、鉄剤の効果が現れるまでには数週間から数ヶ月かかることもあり、根気強い服用が必要です。また、鉄剤は副作用として胃腸症状(吐き気、便秘、下痢など)が現れることがあるため、医師や薬剤師の指示に従い、適切に服用することが大切です。鉄欠乏の原因としては、食事からの鉄分摂取不足、月経過多、消化管からの慢性的な出血(胃潰瘍や大腸がんなど)、妊娠・授乳などが考えられます。そのため、鉄欠乏が見つかった場合には、その原因を特定するための検査(例えば、婦人科検診や消化管内視鏡検査など)が必要になることもあります。むずむず脚症候群の症状があり、特に女性や高齢者、菜食主義者など鉄欠乏のリスクが高い方は、一度血液検査で鉄の状態を確認してみることをお勧めします。適切な鉄補充によって、長年の悩みだった脚の不快感から解放される可能性もあります。