-
脳梗塞予防が最優先!心房細動の抗凝固療法
心房細動の治療において、最も重要かつ優先されるべき目標の一つが、「脳梗塞の予防」です。心房細動になると、心房が小刻みに震えるだけで、正常な収縮ができなくなるため、心房内の血液の流れがよどみやすくなります。その結果、心房(特に左心耳という袋状の部分)に血栓(血の塊)ができやすくなります。この血栓が何らかの拍子に心臓から剥がれ落ち、血流に乗って脳の血管に到達し、そこで詰まってしまうと、脳梗塞(心原性脳塞栓症)を引き起こします。心原性脳塞栓症は、他のタイプの脳梗塞に比べて、広範囲な脳梗塞を起こしやすく、重篤な後遺症を残したり、命に関わったりする危険性が高いと言われています。この脳梗塞を予防するために行われるのが「抗凝固療法」です。抗凝固療法とは、血液を固まりにくくする薬(抗凝固薬)を服用することで、心房内での血栓形成を抑制する治療法です。従来は、ワルファリンというビタミンK拮抗薬が主に用いられてきましたが、納豆や緑黄色野菜など一部の食品との相互作用があり、また、効果に個人差が大きく、定期的な血液検査で効果をモニタリングする必要がありました。近年では、直接経口抗凝固薬(DOAC:Direct Oral Anticoagulants)と呼ばれる新しいタイプの抗凝固薬(ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバンなど)が登場し、広く用いられるようになっています。DOACは、ワルファリンに比べて食事制限がほとんどなく、効果も比較的安定しており、定期的な血液検査によるモニタリングも基本的には不要であるといった利点があります。ただし、腎機能が低下している患者さんには投与量の調節が必要であったり、特定の薬剤との併用に注意が必要であったりします。抗凝固療法を開始するかどうか、そしてどの薬剤を選択するかは、個々の患者さんの脳梗塞のリスク(年齢、高血圧、糖尿病、心不全、脳卒中の既往などを点数化するCHADS2スコアやCHA2DS2-VAScスコアなどが用いられます)と、出血のリスクを総合的に評価し、医師が判断します。抗凝固療法は、自覚症状の有無に関わらず、脳梗塞予防のために非常に重要な治療ですので、医師の指示通りにきちんと服用を継続することが大切です。